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部長の死 − レスリング部員物語

526 :無記無記名 :2006/01/16(月) 12:40:37 ID:HbWhaT5L
馬鹿やろう!!
黙ってみていれば体を鍛えることがあたかも無意味なことのように言いやがって!!
人それぞれ何のために鍛えてるかなんて違うんだよ!!
どうやら、お前らにくどくど説明するよりも、その一例として俺の過去の経験について語ったほうがよさそうだな・・


いつも夜、俺の前に太陽などなかった・・・だけど暗くはなかった、太陽に代わるものがあったから。
夜を昼だと思って生きることができた。
明るくはないけど歩いていくには十分だった。
ウェイトトレーニングは俺の太陽だった。
まがい物の太陽だった・・・だけど、明日へとバルクアップすることをやめない、俺のたった一つの太陽だった。
筋肉は俺の太陽だった。
偽物のたいようだった・・・だけど、この身を包み込み、道を照らす、俺のたった一つの光だった。
あの日から・・・10年前の太陽を失ったあの日から・・・

それは俺が高校に入学し、レスリング部に入って半年が過ぎたときのことであった。
来る日も来る日も、レスリングの練習の合間をぬってウェイトトレーニングをする毎日だった。

 ヌォォォォォォォォォォー!!

俺は、ベンチの台に横たわり、俺の気合がトレーニングルームをこだまする。
100kgにセットされたバーベルが俺のバルクアップされた大胸筋により上下する。

 部長「まだまだだな、その程度ではレスラーの体とはいえない。おれのベンチプレスを良く見ておけ。」

部長が俺のセットしていたバーベルにさらに20kgプレートを2枚追加した。
部長がベンチに横たわり、静寂が部屋を包み込む。
 
 デヤァァァァァァァァァァァー!!!!

140kgの重みが周囲でそれを見ている人たちまでも押しつぶしてしまいそうな重量感を放つ。
しかし、それ以上にそれを支え、上下する大黒柱のような太く何物にも動じない堂々とした太い腕と巨大な岩石のような大胸筋は強烈なオーラを周囲に放っていた。
オリンピック候補にも上がっている選手であるということが更にその迫力を増幅していたように感じられる。
そしてトレーニングが一通り終わり、部長と共に帰路につく途中でのことであった。
目の前の信号が青から赤に変わろうとしている。
俺は急いで横断歩道に向かって走った。
その時である、向こうからトラックが猛スピードで突っ込んでくる。

 部長「アブなーーーーイ!!」

横断歩道の外にいた部長はその研ぎ澄まされた反射神経により、俺をかばおうと、横断歩道に突進し、俺にタックルをして突き飛ばした。
おれは強烈な衝撃と共に横断歩道の外へと突き飛ばされる。
トラックが部長のバルクアップされた肉体を跳ね飛ばす。
その巨体は5mほど吹っ飛び、仰向けに大の字になり頭からは血が流れ出す。

 俺「部長!!」
 部長「つよし、俺はもう駄目みたいだ。お前は俺の代わりに肉体を作り上げオリンピックを目指せ。」

そういいのこすと、その体から力がなくなり、眠るように目を閉じ息をしなくなった。
肉体にはほぼ損傷はなかったのだが、頭部への強打が致命傷となったとのことである。
俺の無理な横断歩道への進入が部長を殺してしまったのである。
その後、周囲からのその行動への中傷や批判のなかを生きていかねばならなくなったのだ。
レスリング部内でも、その状況は同じであった。
だが、退部することはなかった。それは部長の最後に言い残したあの言葉を実現するためであった。
オリンピックなへの目標など俺にはどうでも良かった、それは部長から与えられた偽物の太陽だった。
だが、その偽物の太陽に向かって突き進むときは、重苦しい気持ちから俺を解放された気分で満ち溢れていた。
その偽物の太陽、まがいものの目標があったからこそあらゆる苦境にも耐え抜いてこれたのである。

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