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    真説 氷壁
真説 氷壁
- 759 :無記無記名 :2006/08/13(日) 11:51:08 ID:ZMlvBQ9v
 -  ばかやろう!!  
 筋肉っていうのはなあ、見た目よりも機能性なんだよ!!  
 左右のバランスがどうとか、見た目が悪いとかそんなことばかり気にしてどうするんだ!!  
 ちょうどその教訓となる過去の経験があるので、どうやらそのことについて話さねばならないようだな・・・  
  
 それは3年前のある夏のことであった、俺は世界最難関といわれる高峰「K2」に挑むべく、パートナーのクライマーである北沢とウェイトトレーニングをやっていた。  
 俺はバーベルにプレートをつけ80kgにセットすると両手でバーベルをしっかりと握り締めた。  
  デヤァァァァァァーー!!!!  
 俺の気合が部屋中に響き渡り、俺のバーベルカールで80kgのバーベルが上下する。  
 それに合わせてTシャツもはちきれそうなほどにビルドアップされた俺の上腕二等筋が血管を浮き立たせながら大きく稼動する。  
  北沢「さすがだなあ、ところで最近俺の腕の左右のバランスが悪いみたいで、昨日計ってみたら左右で1.5cmも違うんだ。だから左だけ集中的にトレーニングしようと思う」  
  俺「クライマーの上腕は見た目がよくても機能性がよくなければどうにもならない。見た目なんか気にするな」  
 そして、ついに俺と北沢は世界最難関の高峰K2に挑む日が来たのである。  
 標高8000mを超えるため酸素は薄く、低温により一面が年中雪に覆われている。  
 そして、俺たちは何とか頂上を目前の氷壁のところまできた。  
 北沢は氷壁にくいを打ち命綱であるナイロンザイルを張りながら上へと上っていく。  
  北沢「つよし、この氷壁を超えたら頂上だ。」  
 俺は氷壁を先に上っていく北沢を見上げた。  
 その時である、北沢の背後に巨大な雪の塊があるのが目に映ったのである。  
  俺「北沢!!あぶない!!」  
  北沢「ウァァァァー!!!」  
 なだれは通り過ぎた。北沢はザイルのおかげで何とか助かった。  
 だが、ザイルのより宙吊りになったときに、右足を強く氷壁に打ち付けてしまったのである。  
 氷壁の途中で何とか休めそうな場所を見つけて北沢の足を見る。  
 どうも骨折をしてしまったようである。  
 氷壁を降りて下山するか、上っていったん頂上に出てからノーマルルートを使って下山するほうがいいのか、地図を見ながら検討をした。  
  俺「この位置だといったん頂上まで上って下山するほうが体力の消耗も少なく、安全だな」  
  北沢「だめだ、もう足は使えそうにない。俺をおいてお前一人で上ってくれ・・」  
  俺「ばかやろう!!諦めるな!!お前は天才クライマーだ!!お前ならできる!!」  
 少し休憩をとってから、今度は俺が先頭になりザイロを張りながら上っていくことになった。  
 天候は悪化し吹雪になったになった。身を切られるような寒さと低酸素が俺たちを襲う。  
 北沢が俺の後ろから手だけで俺の張ったザイロを伝って上ってくる。  
  ウァァァァァァァァァァー!!  
 俺は下を見た。後ろからついてくるはずの北沢の姿がそこにはなかった。  
 そして、ザイルが切れているのが目に飛び込んできた。  
  俺「ばかな・・・ザイルが疲労していてきれたのか?!」  
 俺は頂上までいったん上りすぐに下山して地元のレスキュー隊に救援を要請した。  
 数日間の捜索にもかかわらず北沢は見つからなかった。  
 そして俺は単身で帰国し、数ヶ月が過ぎたある日、外務省から電話が入る。  
 北沢が見つかったとのことである。  
 俺は遺体を引き取りに現地に赴いた。  
 北沢のブーツの中から登坂日記に書かれたメモが見つかった。そこには北沢の落下の真相が書かれてあった。  
 それは休憩を取っている隙に書かれていたに違いない  
  つよしが先に上ってザイルをはっていったん頂上に上ってノーマルルートから俺を下山させようという  
  だが、俺は腕だけで上れるだろうか、、、無理だ  
  俺はここ数ヶ月間、上腕の腕のバランスをとるために右の上腕は鍛えず、左の上腕のみをダンベルカールで鍛えていた  
  今の俺の上腕では上りきるのは無理だ  
  その時はつよしを道連れにしないためにザイルをこの手で切ろう  
  この身をK2に捧げよう  
 北沢は俺を道連れにしないために自らその身を捨てたのである。  
 俺は愕然とした。  
 失意のうちに、月日だけが過ぎた。だが、俺の山に対する熱い心は折れていなかった。  
 数ヵ月後、俺の姿はK2の氷壁の前にあった。  
  8月12日快晴  
  いよいよ頂上アタックの日を迎えた。  
  天気も安定している。  
  俺はK2の頂上に立つ。見ていてくれ、北沢。   
 見渡す限りの雪原の中、米粒のような俺の体が雪を掻き分け、氷壁に張り付き一歩一歩力強く登っていくのであった。   
 
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